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2025-09-26 11:33:00

世界の解像度

 生物系の研究者やマニア、動物写真家の方々とたまにご一緒することがありますが、ほんの少し人工湿地の周辺を歩くだけで、私が見落としてしまう様々な生き物を次々に見つけていきます。私には大概地面の一部にしか見えないので、彼らの自然やその中で生息する生き物への感度や造詣の深さにはいつも感動させられます。世界の解像度や彩度、刻々移り変わる形態の微妙な差異の知覚など動的な感受性がまるで違うなと思い知らされます。

 

 私の眼の解像度が荒いのか、生態系に関する知識が浅いのか、解説付きで指し示してもらって初めて生物だと認識できます。まあ、認識できたところでミミズですね、カエルですね、クモですね、トリもいますね、と生態工学系のエンジニアとしては恥ずかしい答えしか返せないので、いつか賢そうな話が出来ればいいなと現場で見かけた生き物をちょいちょい撮影しています。

 

このカタツムリもたまたまシートの上にいたので見つけましたが、殻に毛が生えているのは帰って写真を見返しているときに気づきました。

 

私の目がまだまだ節穴なのは間違いないですね。

 

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2025-09-11 18:22:00

扉を開けるとご対面

人工湿地はろ床表面に水を出さない方式でも運用できますが、水気がなくて居心地悪そうな場所でもこっそり遊びに来るのもいます。

 

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2025-05-18 11:23:00

特別天然記念物

 人工湿地を設置する現場,特に有機性排水を処理する現場は地方の山間・中山間地域に位置することが多いのですが,そういう場所では都市部であまり見ない生き物を見かけることがあります。写真はカモシカが現場を通りすがった時の様子です。人生二度目の遭遇で,私にとってはクマよりも出会うことは稀ですが,1955年に3,000頭と推定されていた個体数が,1978年には75,000頭まで増えて食害も出ているという記事を見ると意外とその辺にいるんだろうかと思ったりします。

 ただ,野生鳥獣による山林の被害を見ると,令和5年度(2023年)の森林被害面積約5,200haのうち,シカが62%に対してカモシカ2%と大分開きがあるので,やっぱり少ないんですかね。

 

(引用サイト)

・ 農林水産・食品産業技術振興協会,日本の特別天然記念物【動物と植物】 -カモシカ,https://www.jataff.or.jp/monument/2.html,2025/5/18参照.

・ 林野庁,野生鳥獣による森林被害,https://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/tyouju.html,2025/5/18参照.

 

 

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2025-03-16 12:53:00

冬でも働く人工湿地

 今年は雪が多くて猪苗代湖近くにある人工湿地は雪の下に完全に埋まっています。1mを超える積雪があるので点検するのも一苦労ですが,人工湿地は降雪に関係なく水を綺麗にし続けてくれています。

 

 

 

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2024-10-12 21:07:00

人工湿地って何?

  生活排水や畜産排水,工業排水のような様々な汚濁物質を含んだ廃水を綺麗にするため,人工的に水処理機能を強化した湿地生態系を利用して目標水質を得る水処理技術です。色々な応用性や,多機能性が見い出されることで機能が拡張され続けており,現在では水処理だけでなく,廃棄物処理や景観創出,雨水涵養,環境教育といった様々な応用がされています。

 

 1953年に故Käthe Seidel博士というドイツの植物学者の方が,沼沢植物を用いて水を綺麗にする方法として発表したのが始まりで,当初はHydrobotanical system(水生植物法とでもいうんですかね)と呼んでいたそうです。この後紆余曲折を経て様々な名前が現れるのですが,現在はConstructed wetlandという名称が優勢です。ちなみに,Seidel博士が提案したシステムは,20世紀の終わりに再登場して現在のハイブリッド式の人工湿地の基礎となったということで,分野を開拓しただけでなく最初の段階で完成形にほぼ近いものを作り上げたという偉大な方です。

 

 ドイツで開発された技術なんですが,実際に初めて応用されたのはオランダのFlevolandにあるIjssel湖でした。ここでは,自由表面流式(FWS:Free Water Sysem)の人工湿地が採用され,深さ0.4m,広さ1ha(10,000㎡)という大きなものが設置されたようで,まだ実用技術として普及していなかった段階でこんな巨大な施設をどうやって導入にこぎつけたのかは非常に興味深いところです。ドイツで設置されなかった経緯としては,当時ドイツの水処理の場では,水処理装置に生えてくる沼沢植物は処理の妨げになるものであって,植物を植えることが処理を助けることに結び付くと考えられていなかったみたいで,それを乗り越えることが出来なかったという事情があるそうです。人工湿地の技術者としてはやるせない気がしますが,同時に盲目的に最新技術に飛びつくのではなく慎重に運用すべきだと考えたのかもしれない当時の技術者や行政の人達に共感もして中々複雑な思いにさせられます。

 

 最初に発表されてから48年後となる2001年に発表された論文だと,ドイツの地方の戸別の家庭や1000人未満の小規模集落の排水を処理するシステムとして5,000カ所位出来ているということで,人工湿地の生まれ故郷で無事に定着しているようですね。

 

 

(参考文献)

・ J. Vymazal (2006), Constructed wetlands with emergent macrophytes; From experiments to a high quality treatment technology, 10th International conference on wetland systems for water pollution control, pp 3-27.

・ Volker Luederitz, Elke Eckert, Martina Lange-Weber, Andreas Lange, Richard M Gersberg(2001), Nutrient removal efficiency and resource economics of vertical flow and horizontal flow constructed wetlands, Ecological Engineering, Vol.18(2), pp 157-171.

 

 

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