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人工湿地って何?
生活排水や畜産排水,工業排水のような様々な汚濁物質を含んだ廃水を綺麗にするため,人工的に水処理機能を強化した湿地生態系を利用して目標水質を得る水処理技術です。色々な応用性や,多機能性が見い出されることで機能が拡張され続けており,現在では水処理だけでなく,廃棄物処理や景観創出,雨水涵養,環境教育といった様々な応用がされています。
1953年に故Käthe Seidel博士というドイツの植物学者の方が,沼沢植物を用いて水を綺麗にする方法として発表したのが始まりで,当初はHydrobotanical system(水生植物法とでもいうんですかね)と呼んでいたそうです。この後紆余曲折を経て様々な名前が現れるのですが,現在はConstructed wetlandという名称が優勢です。ちなみに,Seidel博士が提案したシステムは,20世紀の終わりに再登場して現在のハイブリッド式の人工湿地の基礎となったということで,分野を開拓しただけでなく最初の段階で完成形にほぼ近いものを作り上げたという偉大な方です。
ドイツで開発された技術なんですが,実際に初めて応用されたのはオランダのFlevolandにあるIjssel湖でした。ここでは,自由表面流式(FWS:Free Water Sysem)の人工湿地が採用され,深さ0.4m,広さ1ha(10,000㎡)という大きなものが設置されたようで,まだ実用技術として普及していなかった段階でこんな巨大な施設をどうやって導入にこぎつけたのかは非常に興味深いところです。ドイツで設置されなかった経緯としては,当時ドイツの水処理の場では,水処理装置に生えてくる沼沢植物は処理の妨げになるものであって,植物を植えることが処理を助けることに結び付くと考えられていなかったみたいで,それを乗り越えることが出来なかったという事情があるそうです。人工湿地の技術者としてはやるせない気がしますが,同時に盲目的に最新技術に飛びつくのではなく慎重に運用すべきだと考えたのかもしれない当時の技術者や行政の人達に共感もして中々複雑な思いにさせられます。
最初に発表されてから48年後となる2001年に発表された論文だと,ドイツの地方の戸別の家庭や1000人未満の小規模集落の排水を処理するシステムとして5,000カ所位出来ているということで,人工湿地の生まれ故郷で無事に定着しているようですね。
(参考文献)
・ J. Vymazal (2006), Constructed wetlands with emergent macrophytes; From experiments to a high quality treatment technology, 10th International conference on wetland systems for water pollution control, pp 3-27.
・ Volker Luederitz, Elke Eckert, Martina Lange-Weber, Andreas Lange, Richard M Gersberg(2001), Nutrient removal efficiency and resource economics of vertical flow and horizontal flow constructed wetlands, Ecological Engineering, Vol.18(2), pp 157-171.